読書記録

読書ノート 『スイート・ホーム』原田マハ著 ポプラ社

大好きな原田マハさんの著書。
この『スイートホーム』は、原田マハさんが得意とするアートミステリーとは全く異なる、身の回りのハートウォーミングな人付き合いの短編の綴り合わせです。
ソーシャルディスタンスやオンライン飲み会など、人との距離を気にするようになってしまった昨今に合わせて、こういう時代の時間をまた取り戻せたらいいなと希望すらもてる人の温かい真心がたくさん込められた著書です。

読書ノート 『スイート・ホーム』 原田マハ著 ポプラ社

あらすじは洋菓子店「スイートホーム」を中心に取り巻く物語

兵庫県宝塚市にある「スイートホーム」という洋菓子店を運営する家族それぞれが主役のお話。まずは長女の陽皆(ひな)のストーリーから始まり、そのお客さんのひとりでもある料理教室の未来先生、陽皆のおばさんのいっこおばさんと妹の晴日(はるひ)のストーリーが各章になって繰り広げられます。
その描かれる舞台は季節を通じて、木漏れ日の優しい情景と季節の花の香りが漂いながらも、中心舞台となる「スイートホーム」から溢れ出る洋菓子の甘い香りすら想像できてしまいそうな表現に満ち溢れています。そしてその甘い香りを引き立たせてくれる数々のお客様のストーリーが秀悦です。

微笑ましく、心がほっとする物語ではありますが、ちょっと2回ほど感涙してしまうシーンもあります。
私は今まで小説を読んで泣いたことなど一切なかったのですが、原田マハさんという作家さんの作品に出会ってから、だいたいよく泣きます。しかも感動の涙です。
ジーンと心に響くのです。

またテラスのあるスーパーマーケット「オアシス」が登場しますが、実際に関西地区には多く出店されているスーパーマーケットさんなので、地元の人は臨場感もあるのではないでしょうか。
なのでフィクションとはいえども、ちょっとノンフィクション的な錯覚も出てきてしまいます。

全ての短編の主人公は女性

原田マハさんの短編集の作品は、女性が主人公なことが多い気がします。なので女性が読む場合は、その臨場感だったり、女性だったらこう言う気持ちわかるなという共感性が高いと思います。
でも私はあえてぜひ男性にも読んでほしいと思います。というのは、女性の心模様がとても時系列的にもわかりやすく描かれているので、女心がわからないという男性にはことお勧めです。
「あしたのレシピ」の章にある料理研究家の未来先生のお話は、女性の恋に落ちる瞬間的な心から、恋がもたらす献身へと変わる強さ、そして見守る愛情とその自己満足ながらの幸福感など、ぴったりと心にはまりっぱなしです。
最初に主人公的な陽皆のストーリー「スイート・ホーム」の章で、陽皆の性格や行動予想が理解できます。そして、読者にはもうすでに陽皆の印象がつけられている状態で「あしたのレシピ」の章に行かせる構成がまたすごいなぁと関心すらします。

ただこの「スイートホーム」の場合は、女性の生き様というよりも、女性の心根の優しさが全体的に描かれています。その優しさが読み手の心をほぐしてくれるので、心がささくれている時にもぜひ読んで、一度その心を小説に預けてほしいなとも思いました。テラピーみたいですね。

懐かしく憧れた街の風景が見える絵本のような小説

出だしから季節の描写がとにかく美しく、ちょっとスタジオジブリ映画の『耳をすませば』や『コクリコの坂から』の描写風景を思い出してしまいました。
本文中に「ゆるやかなカーブの坂道を、ぐんぐんバスが上がる(本文10ページ)」の表現は、アニメ的な描写で私には映し出されました。どちらかというと二次元的な想像ができるような、絵本をめくるような描写です。
個人の心理的なものもありますが、文字で描写されているに関わらず、季節の移ろいや笑顔あふれる街のコミュニティがイラスト的に見えてくるとでもいえましょうか。きっとそういう社会に私が憧れているからかもしれません。

そしてもう日本人はその香りの想像も容易なキンモクセイがキーワードの風景もあるので、たとえ文字だけの小説であったとしても、2Dから4Dになるのもまた不思議な感覚です。

親切は希望になって返ってくるという期待

この小説にはたくさんの親切が散りばめられています。そんな親切は照れ臭いみたいな親切も当たり前のことのように描かれています。そしてその親切の話を知った後、心がほっこりするという。やっぱり人は親切という行為には安心感と安堵感があるのだなと読み手としても思いました。

原田マハさんの小説には涙はあっても、期待を裏切るような不幸はありません。なので安心して読むことができます。ハリウッド映画の構成みたいな感じもありますが、だからこそ、臨場感やその空気感までをも感じられます。
アートミステリーもまた違う感覚で緻密に描写される登場人物の言動には目も離せなくなりますが、この『スイート・ホーム』のように心がほっこりとする小説もまた魅力的です。やっぱり私は休息時のお供に原田マハさんを選ぶことが多いですね。
原田マハさん、いつも素敵な作品をありがとうございます! と読了時毎回言いたくなります。

休日にゆったり過ごす午後時間にお茶と一緒にお勧めしたいと思える一冊でした。

http://offsta.com/reading_1/

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